五木寛之

私は、むかしから、お金というものを信用できませんでした。なぜこの紙きれで物が買えるのかと、不思議でならなかったのです。旧大日本帝国の植民地であった朝鮮半島で、敗戦を迎えたとき、その疑惑は現実のものとなりました。 それまで政府が保証していたお札は、国が倒れればまったく価値がなくなる。どんなに貯金があっても、ただの紙きれになってしまうのです。